聾 浩の教室 聾
−掠-mode版−

歷歷エビフライ

 今日は所用があって、某所にいってきた。以下は、そこに行くまでの昼の風景である。お昼前に出かけたので、腹ごしらえしようとし、ある食堂にはいった。7人か8人座ればお互いひじが邪魔になりそうなカウンターのほか、テーブル席と丸イスが用意されている店である。15人も入場すればイッパイである。小汚いというと失礼だが、しかし、いかにも小さい虫が出てきそうな感じ漂うカウンターである。

 近所に勤め先があると推測されるサラリーマン氏が、そのカウンターでなにがしか注文品を食ったあと、スポーツ新聞に目を落し、昼の残りの休み時間をつぶしているようであった。彼にとっては、くり返し行われる日常なのであろう。店主とのやりとりがそのことを証明していた。新聞はそれ1紙しかおいていなかったので、注文をした品がでてくるまで、ワタクシは手持ち無沙汰を被ることになる。

 サラリーマン氏が頼んでいたのは日替わり定食かもしれない。エビフライを食いちぎった後のピンクのシッポが3つとキャベツの千切りが少し皿に残っていた。麦茶を飲みほすと、ごちそうさんといい、カードがチラッと見える黒いサイフからいくらか払って出ていった。ようやく新聞が読める。

 新聞をとろうと手を伸ばしながら、次々入ってくる客を当てこんで、あらかじめ準備された目の前の皿を詳しく観察すると、サラダにスパゲティが少し盛られている。そこに、拳よりふたまわりは小さな球体を16分割した赤いトマトが添えられていた。そこにエビフライを3尾横たわらせたのが日替わり定食の内容であろうと判断した。振り向いて店の壁に掛かった黒板を再確認すれば、たしかに「エビフライ定食600円」と書いてある。味噌汁つき。

 あまりエビが好きでないワタクシは、これは回避せねばならぬと思い、他のメニューを注文をしたのであった。子どもの頃、それも小学校1年生くらいだっただろうか、冷めに冷めたエビフライを無理やり食べさせられた経験のあるワタクシは、大人になってもこのトラウマから抜け出せない。エビの尻尾を口から出し泣いている子ども図を想像してほしい。

 黒板には6つほど定食メニューがあったので、そのうちのひとつ、そば定食を頼んだ。スポーツ新聞一面には、来年度ドラフトの目玉になる、ある大学のピッチャーの争奪戦について解説されてあった。サラリーマン氏もそれを読んでいたのだろう。ぼんやりその記事に目を通して、そばを待つ。

 おまたせと声かけられて、苦笑した。出されたそば定食は、なんとエビフライ定食のサイドに、かけそばがセットされたものだったからである。ふつう、そば定食といえば、そばと簡単な一品およびおにぎり2ヶと相場は決まっている。そうした世間の共通理解を超えたそば定食がワタクシの目の前にどどーんと置かれたのである。

 そんなことを考えながら、なぜかマヨネーズがかけられているエビフライを、ワタクシは神妙な顔で食べ切った。1尾につき2くちで、都合6くちでエビをやっつけた。味を感じない食べ方である。これまた世間の共通理解を超えていると思われることなのであるが、ふつう、エビフライ定食というと、エビ数は2尾なのではないのか。さて、このそば定食は650円なのである。とすると、エビフライ定食が600円であるから、そばは50円という設定なのである。これは安い。定食内容にも騙されたが、値段にも不自然さを感じた。このあたりも世間の共通理解を超えている。

 チェーン店のそれこそ決まりきった定食は安心感があってよいものであるが、こうした小さな食堂には思わぬ特色があることを思い知らされた。サラリーマン氏と同じく麦茶を飲みほし、サラリーマン氏より50円多く払って、食堂を後にしたワタクシである。


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